2015年4月7日火曜日

平成25年(受)第1080号 損害賠償請求事件平成27年2月19日 第一小法廷判決 非上場会社と有利発行

非上場会社が株主以外の者に発行した新株の発行価額が商法280条ノ2第2項にいう「特ニ有利ナル発行価額」に当たるかが争点となっています。
平成25年(受)第1080号 損害賠償請求事件
平成27年2月19日 第一小法廷判決

主 文
1 原判決中上告人ら敗訴部分を破棄し、同部分につき第1審判決を取り消す。
2 前項の部分に関する被上告人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

理 由
上告代理人加々美博久ほかの上告受理申立て理由(ただし、排除されたものを除く。)について
1 本件は、上告補助参加人(以下「参加人」という。)の株主である被上告人が、参加人の取締役であった上告人らに対し、平成16年3月の新株発行(以下「本件新株発行」という。)における発行価額は商法(平成17年法律第87号による改正前のもの。以下同じ。)280条ノ2第2項の「特ニ有利ナル発行価額」に当たるのに、上告人らは同項後段の理由の開示を怠ったから、同法266条1項5号の責任を負うなどと主張して、同法267条に基づき、連帯して22億5171万5618円及びこれに対する遅延損害金を参加人に支払うことを求める株主代表訴訟である。
上告人らは、本件新株発行における発行価額は「特ニ有利ナル発行価額」に当たらないなどと主張して、これを争っている。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
(1) 参加人は、平成16年3月当時、非上場会社であり、株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定款の定めがあった。
本件新株発行前における参加人の発行済株式の総数は40万株であり、これらは役員、幹部従業員等によって保有されていた。
(2) 参加人は、株式の上場を計画し、平成12年5月、新株引受権の権利行使価額を1株1万円とする新株引受権付社債を発行した。
しかしながら、その後、参加人では、主力商品の展開に失敗して売上げの減少が続いた上、不動産について巨額の含み損を抱えるに至り、有利子負債の額も増大した。参加人は、取引銀行に対して返済停止や追加融資を要請したが、いずれも断られたり、難色を示されたりした。そこで、参加人は、役員報酬及び従業員給与の削減、定期昇給の凍結、広告費の削減等を断行したほか、不動産を順次売却した。
参加人では、平成10年度から平成12年度までの3事業年度(4月1日から翌年の3月31日までをいう。以下同じ。)には1株当たり150円の配当がされていたが、平成13年度及び平成14年度には配当がされなかった。
(3) 参加人では、平成13年頃から、参加人の株式を保有する役員、幹部従業員等の退職が相次いだ。代表取締役の上告人Y1その他の役員等は、退職者からその保有する株式の買取りを求められ、その都度、1株1500円でこれらを買い取った。
参加人は、平成14年7月から同年10月までの間、上告人Y1から上記株式の一部を1株1500円で購入し、自己株式とした。もっとも、参加人は、取引銀行からの要請等を踏まえ、平成15年11月、上告人Y1に対してこれらの自己株式を1株1500円で売却した。
なお、上告人Y1は、平成14年12月、幹部従業員約40名に対し、上告人Y1の引き続き保有する株式を1株1500円で購入するよう希望者を募ったが、希望者はほとんど現れなかった。また、上記(2)の新株引受権付社債については、平成15年6月、参加人の株主総会において、新株引受権の権利行使価額を1株1500円に変更する旨の特別決議がされた。
(4) 参加人は、平成15年11月に行われた自己株式の処分に先立ち、B公認会計士(以下「B会計士」という。)に参加人の株価の算定を依頼した。

B会計士は、平成15年10月頃、参加人から、①平成12年度から平成14年度までの決算書(貸借対照表、損益計算書及び利益処分計算書)、営業報告書及び附属明細書、②平成14年度の法人税確定申告書及び勘定科目内訳書、③参加人の過去の株式売買実績例及び株式移動表並びに株主名簿、④相続税路線価による参加人保有土地の評価資料、ゴルフ場等の含み損益に関する資料及び債権の貸倒引当金の明細等の提出を受けた。また、B会計士は、参加人の担当部長と面談し、建物及び子会社株式にも含み損があることや、株価算定の基礎資料となる事業計画は存在しないことなどを確認した。

その上で、B会計士は、平成15年10月31日、次のアからウまでの理由により、参加人の同年6月26日以降の株価を1株1500円と算定し、その旨参加人に報告した。

ア 参加人の株式は、一時的に無配であるものの、それ以前は継続して配当が行われてきたことや、一定期間、利益配当に係る期待値によって評価された価格により株式売買が行われてきたことを考慮すると、配当還元法により算定するのが適切と考えられる。
イ 参加人では、従前は1株当たり150円の配当がされており、直近の過去2事業年度は経営体質の強化を目的として一時的に無配としたものにすぎず、今後、利益配当を復活させることを予定しているのであって、直近の取引事例にも照らすと、株価の算定に当たっては、1株当たりの配当金額を150円とするのが相当である。そして、これを財産評価基本通達の配当還元法の算式で用いられている資本還元率で還元すると、1株当たりの評価額は1500円と算定される。
ウ 参加人の時価純資産に巨額のマイナスが生じていることや、株価算定の基礎資料となる事業計画はないこと、売上げも減少傾向にあることなどからすれば、簿価純資産法、時価純資産法、収益還元法、DCF法及び類似会社比準法は採用しない。

(5)ア 参加人は、店舗改修等の設備投資資金及び運転資金を調達するとともに、役員や幹部従業員に株式を保有させて経営への参画意識を高めることを目的と
して、本件新株発行を行うことにした。もっとも、これは上記(3)の自己株式の処分と同一事業年度内での新株発行であり、B会計士の算定結果の報告から4箇月程度しか経過していなかったため、改めて専門家の意見を聴取することはなかった。
イ まず、平成16年2月19日、参加人の取締役会において、次のとおり本件新株発行を行う旨の決議がされた。
新株の種類及び数 普通株式4万株
発行価額 1株1500円
払込期日 同年3月24日
割当先 上告人Y12万3000株、上告人Y25000株、上告人Y31000株、C6000株、D2000株、
E2000株、F1000株
ウ これを踏まえ、上告人Y1は、株主らに対し、本件新株発行における新株の種類及び数、発行価額、払込期日、割当先等を記載した株主総会招集通知を送付した。
そして、平成16年3月8日、参加人の株主総会において、本件新株発行を行う旨の特別決議がされた。その際、上告人らは、「特ニ有利ナル発行価額」をもって株主以外の者に対し新株を発行することを必要とする理由の説明はしなかった。
(6) 参加人の平成15年度の決算は増収増益となり、有利子負債の額も減少に転じ、1株100円の配当が行われた。また、平成16年度には広告宣伝の効果もあって新商品の売上げが伸び、増収増益となり、有利子負債の額も大きく減少し、1株150円の配当がされた。平成17年度には、新商品の相次ぐ投入や、店舗の刷新等の設備投資の結果、商品の売行きは好調となった。
参加人は、株式の上場を再び視野に入れるようになり、平成18年2月には1株を10株にする株式分割を行い、同年3月には新株22万株を1株900円で発行した。

3 原審は、次のとおり判断して、被上告人の請求を一部認容すべきものとした。
参加人の株式は、平成12年5月時点で1株1万円程度、平成18年3月時点で1株(株式分割前)9000円程度の価値を有していたというべきところ、DCF法によれば平成16年3月時点の価値は1株7897円と算定されるのであって、これに諸般の事情も併せ考慮すると、本件新株発行における公正な価額は少なくとも1株7000円を下らないというべきであるから、本件新株発行の発行価額(1株1500円)は「特ニ有利ナル発行価額」に当たる。なお、B会計士の採用した配当還元法は、主として少数株主の株式評価において、安定した配当が継続的に行われている場合に用いられる評価手法であって、本件においては相当性を欠く。

4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

(1) 非上場会社の株価の算定については、簿価純資産法、時価純資産法、配当還元法、収益還元法、DCF法、類似会社比準法など様々な評価手法が存在しているのであって、どのような場合にどの評価手法を用いるべきかについて明確な判断基準が確立されているというわけではない。また、個々の評価手法においても、将来の収益、フリーキャッシュフロー等の予測値や、還元率、割引率等の数値、類似会社の範囲など、ある程度の幅のある判断要素が含まれていることが少なくない。
株価の算定に関する上記のような状況に鑑みると、取締役会が、新株発行当時、客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行価額を決定していたにもかかわらず、裁判所が、事後的に、他の評価手法を用いたり、異なる予測値等を採用したりするなどして、改めて株価の算定を行った上、その算定結果と現実の発行価額とを比較して「特ニ有利ナル発行価額」に当たるか否かを判断するのは、取締役らの予測可能性を害することともなり、相当ではないというべきである。
したがって、非上場会社が株主以外の者に新株を発行するに際し、客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行価額が決定されていたといえる場合には、その発行価額は、特別の事情のない限り「特ニ有利ナル発行価額」には当たらないと解するのが相当である

(2) これを本件についてみると、B会計士は決算書を初めとする各種の資料等を踏まえて株価を算定したものであって、B会計士の算定は客観的資料に基づいていたということができる。
B会計士は、参加人の財務状況等から配当還元法を採用し、従前の配当例や直近の取引事例などから1株当たりの配当金額を150円とするなどして株価を算定したものであって、本件のような場合に配当還元法が適さないとは一概にはいい難く、また、B会計士の算定結果の報告から本件新株発行に係る取締役会決議までに4箇月程度が経過しているが、その間、参加人の株価を著しく変動させるような事情が生じていたことはうかがわれないから、同算定結果を用いたことが不合理であるとはいえない。これに加え、本件新株発行の当時、上告人Y1その他の役員等による買取価格、参加人による買取価格、上告人Y1が提案した購入価格、株主総会決議で変更された新株引受権の権利行使価額及び自己株式の処分価格がいずれも1株1500円であったことを併せ考慮すると、本件においては一応合理的な算定方法によって発行価額が決定されていたということができる。
そして、参加人の業績は、平成12年5月以降は下向きとなり、しばらく低迷した後に上向きに転じ、平成18年3月には再度良好となっていたものであって、平成16年3月の本件新株発行における発行価額と、平成12年5月及び平成18年3月当時の株式の価値とを単純に比較することは相当でなく、他に上記特別の事情に当たるような事実もうかがわれない。
したがって、本件新株発行における発行価額は「特ニ有利ナル発行価額」には当たらないというべきである。

5 以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決中上告人ら敗訴部分は破棄を免れない。そして、以上説示したところによれば、上記部分に関する被上告人の請求はいずれも理由がないから、同部分につき第1審判決を取り消し、同部分に関する請求をいずれも棄却すべきである。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山浦善樹 裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志 裁判官白木 勇)


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