2015年4月7日火曜日

非流動性ディスカウントは認められるかについての最高裁判決 株価算定実務に影響


非上場会社の株価算定で非流動性ディスカウントが認められるかが争われた訴訟で、最高裁の判例が出ました。
実務では、収益還元法でも非流動性ディスカウントが適用されることが散見されましたが、今後は見直す必要があるかもしれません。
今後は、株価算定の係争では、非流動性ディスカウントは争点になりづらくなると思います。

平成26年(許)第39号
株式買取価格決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
平成27年3月26日 第一小法廷決定

 主 文
1 原決定を破棄し、原々決定を取り消す。
2 抗告人が有していた株式会社A発行に係る株式の買取価格を1株につき106円とする。
3 鑑定人に支払った鑑定料120万円のうち94万8837円を抗告人の、25万1163円を相手方の各負担とし、原審及び当審における抗告費用はいずれも相手方の負担とする。

 理 由
抗告代理人小黒芳朗、同吉田博樹の抗告理由について

1 本件は、相手方を吸収合併存続株式会社、株式会社A(以下「A社」という。)を吸収合併消滅株式会社とする吸収合併(以下「本件吸収合併」という。)に反対したA社の株主である抗告人が、A社に対し、抗告人の有する株式を公正な価格で買い取るよう請求したが、その価格の決定につき協議が調わないため、抗告人が、会社法786条2項に基づき、価格の決定の申立てをした事案である。
A社は非上場会社であるところ、非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ、裁判所が収益還元法(将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元することにより株式の現在の価格を算定する方法をいう。)を用いて株式の買取価格を決定する場合に、当該会社の株式には市場性がないことを理由とする減価(以下「非流動性ディスカウント」という。)を行うことができるか否かが争われている。

2 記録によれば、本件の経緯は、次のとおりである。
(1) A社は、平成24年6月当時、発行済株式の総数338万7000株の非上場会社であり、株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定款の定めがあった。
(2) A社は、平成24年6月6日、相手方との間で、効力発生日を同年10月1日として本件吸収合併をする旨の合併契約を締結した。
(3) 平成24年8月8日に開催されたA社の株主総会において、上記契約を承認する旨の決議がされた。
A社の株式32万5950株を有する抗告人は、上記株主総会に先立ち、本件吸収合併に反対する旨をA社に通知した上、上記株主総会において本件吸収合併に反対し、同年9月12日、A社に対し、上記株式を公正な価格で買い取ることを請求した。
(4) 平成24年10月1日、本件吸収合併の効力が発生し、A社は相手方に吸収合併された。
抗告人は、同年11月21日、原々審に対し、上記株式の買取価格の決定の申立てをした。
(5) 鑑定人のB公認会計士は、原々審において、次のとおり鑑定意見を述べた。
本件では収益還元法を用いるのが相当であるところ、A社において将来期待される純利益を予測し、その現在価値を合計すると、約3億6158万3000円となる。そして、非上場会社の株式は上場会社の株式のように株式市場で容易に現金化することが困難であるため、非流動性ディスカウントとして上記金額から25%の減価を行い、その結果を発行済株式の総数338万7000株で除すると、A社の株式の公正な買取価格は、1株につき80円となる。

3 原審は、次のとおり、収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合であっても非流動性ディスカウントを行うことができると判断して、抗告人が有していた株式の買取価格を1株につき80円と定めるべきものとした。
吸収合併に反対して会社からの退出を選択した株主には、吸収合併がされなかったとした場合と経済的に同等の状況を確保すべきところ、A社の株式の換価は困難であり、このことは株式の経済的価値自体に影響を与えているというべきであるから、株式の換価の困難性を考慮することが裁判所の合理的な裁量を超えるものということはできない。抗告人は収益還元法を採用する限りは非流動性ディスカウントを行うことはできないと主張するが、抗告人の享受していた財産的地位は換価の困難性を反映したものというべきであり、上記主張は理由がない。

4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
会社法786条2項に基づき株式の価格の決定の申立てを受けた裁判所は、吸収合併等に反対する株主に対し株式買取請求権が付与された趣旨に従い、その合理的な裁量によって公正な価格を形成すべきものであるところ(最高裁平成22年(許)第30号同23年4月19日第三小法廷決定・民集65巻3号1311頁参照)、非上場会社の株式の価格の算定については、様々な評価手法が存在するが、どのような場合にどの評価手法を用いるかについては、裁判所の合理的な裁量に委ねられていると解すべきである。しかしながら、一定の評価手法を合理的であるとして、当該評価手法により株式の価格の算定を行うこととした場合において、その評価手法の内容、性格等からして、考慮することが相当でないと認められる要素を考慮して価格を決定することは許されないというべきである。
非流動性ディスカウントは、非上場会社の株式には市場性がなく、上場株式に比べて流動性が低いことを理由として減価をするものであるところ、収益還元法は、当該会社において将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元することにより株式の現在の価格を算定するものであって、同評価手法には、類似会社比準法等とは異なり、市場における取引価格との比較という要素は含まれていない。吸収合併等に反対する株主に公正な価格での株式買取請求権が付与された趣旨が、吸収合併等という会社組織の基礎に本質的変更をもたらす行為を株主総会の多数決により可能とする反面、それに反対する株主に会社からの退出の機会を与えるとともに、退出を選択した株主には企業価値を適切に分配するものであることをも念頭に置くと、収益還元法によって算定された株式の価格について、同評価手法に要素として含まれていない市場における取引価格との比較により更に減価を行うことは、相当でないというべきである。
したがって、非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ、裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に、非流動性ディスカウントを行うことはできないと解するのが相当である。

5 以上と異なる原審の判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原決定は破棄を免れない。そして、以上説示したところによれば、A社において将来期待される純利益の現在価値の合計は約3億6158万3000円であり、発行済株式の総数は338万7000株であるから、株式の買取価格は抗告人の主張するとおり1株につき106円となるものというべきである。したがって、原々決定を取り消し、抗告人が有していたA社の株式の買取価格を1株につき106円とし、鑑定人に支払った鑑定料120万円については当事者の合意に照らして鑑定結果と各当事者の主張金額とのかい離額に応じて分担させることとする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 池上政幸 裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志 裁判官山浦善樹)


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