2013年6月10日月曜日

種類株式の株価算定における検討事項

1.議決権制限株式の株価算定
議決権制限株式を評価する際の考え方の一例として、実際の議決権制限株式と普通株式の価格スプレッドを検証する手法が有効である。「種類株式の活用と発行価額の設定」(武田竜一郎 企業会計 2002 Vol.54 No.10)によると、海外研究事例では「概ね5%~10%程度の水準と推測され」、みずほ証券による検証でも「スプレッド平均は約4.0%」となること、及び、国内事例においても「2002年3月に無議決権株式を発表した日鐵商事の場合、発行価額の決定方法として「直近3か月間の東証終値平均株価及び海外(米国及びドイツ)における普通株式と無議決権株式の流通価格差額を参考」として5%のディスカウントとしている。」こと等の報告がある。
また、国税庁における相続税の財産評価における無議決権株式の評価についても同様の以下のような記述がある。
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「財産評価基本通達の一部改正について」通達等のあらましについて(情報)
1.平成 15 年7月4日 取引相場のない株式の評価(種類株式を発行している場合の議決権総数等)
(参考)種類株式の評価方法
(中略)普通株式に比べて議決権のみがない無議決権株式(他の権利は普通株式と同じ)の発行価額を決定するに際し、他の銘柄で海外の市場に上場している普通株式と無議決権株式の流通価格差を参考に、普通株式の時価(証券取引所の一定期間の普通株式の平均株価)から5%程度ディスカウントしているものもある。
種類株式については、普通株式に比べて権利内容及び転換条件等がどのように異なるのかにより、個々にその発行価額が設定されるとともに、その後の様々な要因により時価が決まっていくと考えられる。したがって、今後、評価方法が問題となる種類株式が出てきた場合には、その種類株式について普通株式の権利内容に比べてどのような相違があるのか、転換条件はどうなっているのかなどを確認することが重要となる。例えば、種類株式の発行価額が普通株式の時価と同じであり、転換時も種類株式1株に対し普通株式1株となるようなものについては、種類株式の時価と普通株式の時価に価格差がない場合もあると考えられる。(中略)種類株式については、上記を参考にして個別に評価することとする。
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上記のような考え方は、観察可能な価格を用いて推定していることから、客観性に富んだ評価法であるといえるが、上記の分析は主として海外における上場普通株式と同じく上場されている種類株式の比較による数値分析か、あるいはそれらの結果を参照したものと考えられる事例であり、日本における固有の事情を必ずしも反映したものではない点に留意する必要がある。
すなわち、議決権の持つ価値は、各国のコーポレート・ガバナンスの事情にも影響を受けると考えられ、一概に海外と日本を同一のレベルで比較することが正しいとはいえないこともあろう。また、上記のような価格スプレッドのデータを使用するに当たって、上場している株式同士であってもそれぞれの種類株式と普通株式の流動性等に重要な差異があるためにスプレッドが歪められているようなことがないかにも留意が必要であろう。さらに、類似の特徴を有すると考えられる比較可能性の高い種類株式が海外の事例であっても上場しているかどうかなど、実際の評価において留意すべき点があると想定される。

2.配当についての異なる定め
優先配当などの配当について異なる定めがされている場合には、配当というキャッシュ・フローに基づく方法が考えられるが、通常は配当だけに異なる定めがされているケースは少なく、その他に付与されている権利内容等に関する影響も加味する必要がある。

3.株式に付されたオプション
普通株式転換請求権等のオプションが付与されている場合には、当該オプションの価値を株式の価値に加減することになる。オプションの評価は、通常、二項モデルなどの格子モデルやブラックショールズモデルなどのクローズドモデルを用いる。ただし、ブラックショールズモデルはボラティリティ、リスクフリーレート、予想配当などがオプションの期間を通じて一定であること仮定しているため、その利用できるケースは本来限定されるべきである。

4.コントロール・プレミアムを有する種類株式
黄金株などの種類株式は、普通株式との比較において一定のコントロール・プレミアムを有すると想定される。コントロール・プレミアムは近年、TOB等における公開買付者が一般株主に対して支払うプレミアムとして認識されているところであり、理論的にはa)議決権の3分の1を超えるTOB等を行う場合の「拒否権プレミアム」、b)議決権の過半数を超える場合の「経営権プレミアム」、c)議決権の3分の2を超える場合の「支配権プレミアム」に区分されて議論されているが、ここでは一括してコントロール・プレミアムとしている。
黄金株なども、TOB等における公開買付者がTOB成功後に有する権利と類似する権利を持つことになると考えられるため、実際の市場取引においてコントロール・プレミアムがどのように設定されているかという実証研究が、種類株式の持つコントロール・プレミアムを評価する上で、1つの参考となる。
「コントロール・プレミアムに関する考察」(鈴木一功 証券アナリストジャーナル 2005.7)によると、「Mergerstat社の統計等の米国における実証分析」を根拠としてコントロール・プレミアムの水準は「10~50%」とされている(ただし、「日本における妥当なコントロール・プレミアム水準は、欧米に比べて低い可能性がある、という点も注意すべき」としており、今後の日本におけるTOB事例の経験蓄積及びその研究が待たれるところである。)。
コントロール・プレミアムの経済的な価値の源泉は、買収者が享受することが期待されるシナジー効果であるが、シナジー効果は誰にとっても唯一公正な価値が定まるのではなく、買収者が誰か等によって大きく差異が生じることに留意が必要であろう。また、上記のコントロール・プレミアムの実証研究は1株当たりのプレミアムを分析しているものであるため、実際のコントロール・プレミアムの価値としては1株当たりのプレミアムに買付予定株式数(若しくは実際の買付け数量)を乗じた額になることに留意を要する。
いずれにしても、種類株式の評価においては検討すべき点や実務の成熟を待つべき点も多い段階と考えられる。


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