2012年1月22日日曜日

譲渡制限株式の売買価格決定申立事件 東京地裁平成20年3月14日決定(判タ1266号120頁)

東京地裁平成20年3月14日決定(判タ1266号120頁)

事案の概要
本件会社は、各種繊維工業品、医薬品、化粧品等の製造販売を営む株式会社であり、発行済株式総数は、普通株式2億2641万5057株、A種類株式(議決権のない優先株式)3000万株、B種類株式(議決権のない優先株式)3000万株、C種類株式(議決権を有する利益配当請求権のない株式)1億1513万1500株である。
本件会社は、東証1部上場企業であったが、平成17年6月13日に上場を廃止した。
本件会社は、主要事業として、食品事業、HP事業及び薬品事業の3事業を有していたが、平成18年4月14日、取締役会において、HP事業をX社が出資しているY社に、薬品事業をZ社に、それぞれ営業譲渡する旨の決議をするとともに、食品事業を営む本件会社の子会社の株式をX社に譲渡する旨の決定を行った。
本件会社の株主Aら534名(持株割合は合計約4%)は、上記営業譲渡に反対し、その所有する株式の買取りを請求した。

裁判所の判断
3 本件株式の評価方法
(1) 継続企業としての価値
本件においては、上記のとおり、営業譲渡が行われずに会社がそのまま存続すると仮定した場合における本件会社の株式の価値を評価すべきであるから、基本的に本件会社の継続企業としての価値を評価すべきである。
次に、支配権の移動という観点からの評価が必要か否かを検討する。(中略)Aらがその所有する本件会社の株式を手放したとしても、本件会社における会社の支配権に対して与える影響はほとんど考えられず、本件における買取価格の算定については、支配権の移動という観点から株式価格を表する必要はないというべきである。
以上によれば、本件においては、本件会社の普通株式の価格を算定するに当たっては、専ら、本件会社の継続企業としての価値を評価するという観点から判断手法を選択すれば十分であり、当該判断を覆すに足りる的確な証拠は存在しない。

(2) ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー方式の相当性
そこで、当該営業譲渡が行われなかったと仮定した場合における本件会社の継続企業としての価値を評価するについて、どのような評価方法が相応しいかについて検討する。
鑑定人○○の株式鑑定評価意見書によれば、①収益方式(インカム・アプローチ)は、評価対象会社から将来期待することができる経済的利益を当該利益の変動リスク等を反映した割引率により現在価値に割り引き、株主等価値を算定する方式であること、②収益方式の代表的手法として、ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー方式(以下「DCF法」という。)があること、③DCF法は、将来のフリー・キャッシュ・フロー
(=企業の事業活動によって得られた収入から事業活動維持のために必要な投資を差し引いた金額)を見積り、年次ごとに割引率を用いて求めた現在価値の総和を求め、当該現在価値に事業外資産を加算したうえで企業価値を算出し、負債の時価を減算して株式等価値を算出して株主が将来得られると期待できる利益(リターン)を算定する方法であることが認められる。
上記認定事実によれば、本件において、継続企業としての価値の評価に相応しい評価方法は、収益方式の代表的手法であるDCF法ということができ、本件会社の株式価格の評価に当たっては、DCF法を採用することが相当である。

(3) 他の評価方式について
ア配当還元方式について
(ア)(イ)略
(ウ(中略)本件会社は、本件営業譲渡の当時、産業再生機構の支援を受けている事業再生途上の企業で、配当を行うことができる状況にはなかったこと、本件会社について一般に妥当とされる配当額を求めることは困難であること、事業再生途上の企業は成長性や成長率が必ずしも明確とは言い難いことが認められる。そうだとすると、本件会社の株式を算定するに当たって、実際配当還元法、標準配当法及びゴードンモデル法のいずれの方式も考慮することは相当ではなく、当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。
(エ)略
イ取引事例方式について
(ア)(イ)略
(ウ)(中略)まず最初に取引量についてであるが、前記前提事実(2)オ及び(3)によれば、本件公開買付で取引の対象となった株式数は2181万4229株であるのに対し、本件買取請求に係る株式総数は合計約677万株(各申立人の所有株式数は100株から145万3100株)であることが認められる。そうだとすると、本件公開買付が
少数株主を対象としている点において、本件買取請求の対象となっている各申立人の所有株式数との間で類似性があるといえないではない。しかし、全体の取引数量を比較すると、本件公開買付によりX社が取得した株式は、各申立人の所有株式の合計の3倍以上の量があり、その株式数も各申立人の所有株式の合計に比べて
1500万株以上も多く、同程度の取引量ということはできないから、前記(イ)bの本件鑑定人の見解に照らし、本件買取請求に関する買取価格を決定するについて本件公開買付の価格を参考とすることは適切とはいえない。
本件会社は、本件公開買付の買付価格の客観性が第三者機関による評価によって担保されていると主張するが、本件鑑定人の判断は十分合理性が認められ、また、上記第三者機関の評価を踏まえた本件公開買付の買付価格が1株162円であり、本件鑑定人の判断である1株360円と2倍以上の開きがあることからすると、上記第三者機関の評価を参考とした結論が採り得ないことは後記で検討のとおりであるので、この点に関する本件会社の主張も採用することができない。
(エ)略
ウ純資産方式
(中略)本件会社の株式を算定するに当たっては、本件会社の継続企業としての価値を算定する観点から判断する必要があるところ、純資産方式は、上記でみたとおり、事業継続を前提とする会社においてその企業価値を評価する方法ではないから、本件ではこの方式を考慮するのは相当ではないということになる。
エ類似会社比準方式
(中略)本件会社は、かつて東京証券取引所第1部に株式を上場していた会社であったし、資本金額も350億9998万5000円であり、鑑定基準日現在でも上場会社に匹敵する規模を有している会社とみることができる。そうだとすると、本件において、類似会社比準方式を考慮することもあながち不合理であるとまではいえないではない。しかしながら、前記前提事実(2)で認定したとおり、本件会社は、最近まで産業再生機構の支援を受けていた事業再生途上の会社であって、このような状況にない上場会社とは経営状況が大きく異なり、本件会社と規模の類似する上場会社を勘案・比較することには問題があることが明らかである。そうだとすると、本件ではこの方式を考慮するのは相当ではないことになる。
(4)小括
以上の検討結果によれば、本件においては、本件会社の株式を算定するに当たっては、継続企業としての価値を評価するという観点から、DCF法に従って評価するのが相当であり、当該判断を覆すに足りる的確な証拠は存在しない。
4本件株式の評価
そこで、本件会社の株式の継続企業としての価値について、DCF法に従って算定する。
まず、本件においては、本件会社の株式をDCF法に従って評価している本件鑑定人の株式鑑定評価意見書、修正意見書、回答書、補充説明書(これらを合わせて、以下「本件鑑定」という。)があるので、これについて概観する。
(1)鑑定人による評価
本件鑑定は、本件会社の株式について、次の方法により評価していることが認められる。

ア 評価方法
本件会社の株式の鑑定評価方法として、DCF法を採用する。
なお、DCF法によって株価を算定する場合における具体的な算定式は、次のとおりである。
(ア)1株当たり株式価値
=事業から得られる将来フリー・キャッシュ・フローの現在価値
÷発行済み株式総数
(イ)事業から得られる将来フリー・キャッシュ・フローの現在価値
=(予測期間中のフリー・キャッシュ・フロー
+予測期間後のフリー・キャッシュ・フロー)×割引率
(ウ)割引率
=資本コスト×資本/(負債+資本)
+負債コスト×(1-実効税率)×負債/(負債+資本)
(エ)資本コスト
=リスクフリー・レート+ベータ値×株式リスクプレミアム
=リスクフリー・レート
+ベータ値×(期待収益率-リスクフリー・レート)

イ フリー・キャッシュ・フロー(以下「FCF」という。)の算定
(ア)事業価値の算定手順(略)
(イ)本件主要3事業のFCFの算定方法(略)
(ウ)その他の事業のFCFの算定方法(略)
(エ)予測期間後のFCFの算定方法(略)
(オ)繰越欠損金の取扱い(略)

ウ 永久成長率(略)

エ 割引率
(ア)リスクフリー・レート
投資が無リスク(リスクフリー)であることを前提とした当該資産の期待率で、分析対象と期間が一致するゼロクーポンの国債レートを使用する。本件会社は継続企業であることが前提であるから、長期国債利子率を使用し、平成18年4月13日時点の新規発行国債(第278回)の利回りである年利1.875%とする。
(イ)ベータ値
本件会社は非公開会社であること、食品事業、HP事業及び薬品事業の3つの事業部門に分かれて事業展開していることに照らし、ベータ値は、各事業ごとに類似上場会社のベータ値は、食品事業が0.677、HP事業が0.598、薬品事業が0.521となる。
(ウ)株式リスクプレミアム(期待収益率からリスクフリー・レートを差し引いて算出)
株式リスクプレミアムは、投資家が株式市場全体に対して期待するリスクプレミアムで、株式市場へ投資することによりリスクフリー・レートを超えてどれだけ高い投資利回りを期待するかを示すものであり、通常、株式市場全体の収益率とリスクフリー・レートの差として表される。株式リスクプレミアムを算定する際には、
一般的により長い期間のヒストリカルデータを用いるのが望ましい
とされている。
本件では、一時的な市場の変動による影響を排除するため、1952年(昭和27年)のデータが異常値と考えられるため、安定したデータであり、かつ、入手可能な長期的なデータとして1955年(昭和30年)から2005年(平成17年)までの統計データ(イボットソン社)を使用し、年8.50%を採用する。
(エ)スモール・ビジネス・プレミアム
このような概念による減価は考慮しない。
※本件鑑定人は、スモール・リスク・プレミアムは売買当事者が価格交渉で使用する調整事項であって、客観的根拠があるわけではないため、鑑定の客観性を担保する観点からこれを採用しなかったことが認められる。
以上のような本件鑑定人の判断は、専門的学識と経験に基づき行った判断として十分合理性があり、本件鑑定に不合理な点はないというべきである。
(オ)資本コスト
以上の結果、資本コストは、食品事業で7.63%、HP事業で6.96%、薬品事業で6.30%となる。
(カ)負債コスト
本件会社独自のクレジットリスクが反映された負債コストを採用する観点から、リスクフリー・レートである1.875%に本件会社の親会社である申立外会社の銀行借入金のスプレッドである3.23%を加算したものを採用する。また、実効税率は基準日における対象会社の税率を基に40.69%を採用する。以上の結果、負債コスト
は3.03%となる。
(キ)最適資本構成
資本負債割合は、業界ごとに類似会社の資本負債割合の平均値を算定しその比率に基づいて資本負担割合を算定する。継続企業である本件会社の資本構成は長期的には類似会社の資本負担割合に収斂していくと予想されるため、資本負債割合は事業ごとに類似会社の資本負債割合の平均値を採用する。
(ク)割引率
したがって、割引率は、撤収事業が5.105%、食品事業が6.66%、HP事業が6.55%、薬品事業で6.06%となる。

オ その他の事項
(ア)非支配株式を理由として減価(マイノリティ・ディスカウント)
このような調整は客観的な根拠があるわけではなく、通常は、売買当事者の価格交渉において使われる調整事項であることを考慮して、マイノリティ・ディスカウントという考え方は採用しない
(イ)市場価格のないことを理由とした減価(非流動性ディスカウント)
事業の合併・買収取引に際して非公開会社を評価する場合、当該会社の株式の流動性の欠如を理由とするディスカウントを加味するのが一般的である。しかしながら、株式買取請求権の制度は、多数株主によって会社から離脱することを余儀なくされた少数株主の経済的損失を保護することを目的としたものであり、少数株主は
株式売却を意図していないにもかかわらず譲渡を余儀なくされたのであるから、株主が進んで株式を売却することを前提とした非流動性ディスカウントを考慮すべきではない



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