2012年1月22日日曜日

譲渡制限株式の売買価格決定申立事件 大阪高裁平成元年3月28日決定(判時1324号140頁、判タ712号229頁、金判825 号 18 頁)

大阪高裁平成元年3月28日決定(判時1324号140頁、判タ712号229頁、金判825 号 18 頁)

事案の概要
本件会社は、環境衛生及び清掃用資器材、床敷物の製造販売等、多角的な事業を目的として昭和38年2月に設立された株式会社であって、発行済株式総数375万7050株、資本金18億7852万5000円の会社である。
本件会社の昭和60年3月31日現在帳簿上の資産の合計は457億7300万円、昭和59年4月1日より同日までの利益として21億8500万円(経常利益55億4300万円)を計上している。
本件会社の株主は、昭和60年11月30日現在総数2069名であり、その持株数の構成百分率は、同会社役員8.43%、同従業員24.81%、同元従業員12.74%、加盟店23.63%、関係会社21.07%、関係会社従業員1.93%、取引先0.41%、その他6.98%である。
A、B及びCは、その所有する本件会社の株式(それぞれ238株(0.06%)、8725株(0.23%)、9771株(0.26%))を譲渡するに際し、昭和60年10月11日到達の書面をもって同会社に承認を求めたが、同会社はこれを承認せず、D社を買取人と指定した。
なお、D社は、本件会社の企業集団の福利厚生サービスの観点から本件会社の株式を所有し、同会社従業員による株式取得、株式売却等持株あっ旋の役割を有する、いわば従業員持株会的役割を果たしている会社である

裁判所の判断
1 本件は商法204条の4、2項に基づき売買価格を決定するものであって、それは、被指定者が売渡請求をなした時点における会社の資産状態その他一切の事情(ただし株価形成と関係ある要素に限る)を斟酌して、右時点における当該具体的場合における客観的交換価格を非訟手続で形成(確認的測定でなく)するものである。ところで、継続企業は経済的に収益力により成長活動をなす側面と、土地等資産を所有する側面に分かれ、株式の化体する株主権も右に対応して利益配当請求権と残余財産分配請求権に分かれるところ、後記の特段の事情のない限り、一般少数非支配株主が会社から受ける財産的利益は利益配当(特段の事情があるときは会社の純資産価値)のみであり、将来の利益配当に対する期待が一般株主にとっての投資対象と解される。したがって、少なくとも会社の経営支配力を有しない(買主にとって)株式の評価は右将来の配当利益を株価決定の原則的要素となすべきものというべきであるが、他方、現在及び将来の配当金の決定が多数者の配当政策に偏ってなされるおそれがないこともなく、右配当利益により算出される株価が1株当たりの会社資産の解体価値に満たないこともありうるので、多数者と少数者の利害を調整して公正を期するため、右解体価値に基づき算出される株式価格は株価の最低限を画する意義を有するというべく、また、収益力を欠くとき、将来の配当金の予測ができないとき、又は近く、会社の解散・清算、企業ないしは遊休資産の売却の可能性が認められるとき、会社が協同組合的実態を有するときなど特段の事情のある場合は二次的に会社の資産価値(解体価値又は企業価値)を算定要素として使用すべき場合があるというべきである。また、上場を仮定して類似業種、会社の株価に比準して算定することは類似性の確保が困難である。
右観点に立って本件についてみるに、本件会社の実態は右にみたとおりであり、本件申請にかかる株式数はD社の買受けにより、支配株主とならしめるものでないことも前記認定のとおりであるので、本件株式は普通の少数一般株式で将来の配当利益を期待するほか支配的要因など特段の株価形成、要素はないものというほかない。そこで、本件会社の特殊閉鎖性、上場の余地が極めて乏しい特質、本件株式の一般通常性をもとに一件記録にあらわれた各算定方式につき以下検討する。

2 類似業種比準方式としての国税庁長官通達(昭和39年4月25日直資56)による方式
(以下「国税庁方式」という)が○○鑑定において採用され、Aらが本件会社は上場基準をみたす大会社であるため最適である旨主張している。しかしながら、右基本通達は大量発生する課税対象に対し国家が迅速に対応すべき目的で課税技術上の観点から考案された方式で、国家と国民の公権力の行使関係を律する基準であって、本件のように私人間の具体的個別的利害対立下で公正適正な経済的利益を当事者に享受させようとする商法204条の4、2項の理念とは異なるものであるのみならず、標本会社の公表がなく類似性の検証が不可能であり、利益の成長要素が考慮されず、減価率の合理性が疑わしいため、本件のような譲渡制限株式の売買価格決定の単純又は併用方式における根拠方式となることは適当でないという外なく、この点のAらの主張はとりえない

3 収益還元方式については、○○鑑定がこれを併用するが、これは将来各期に期待される1株当たり課税後純利益を資本化率で還元する方式であるが、右方式の純利益のなかには内部留保として新たな設備投資などにつぎこまれ、株主に対し直接経済的利益をもたらさないものが含まれている点、△△鑑定によれば右方式の資本化率が相当でないとされる点など疑問があり少なくとも配当政策等企業経営を自由になしえない本件のような非支配株主の株価算定には適当でない

4 純資産価額方式については、□□鑑定が時価純資産方式を併用しているが、本件において会社の資産価値を算定要素として斟酌すべき前示特段の事情は認められないので、直ちにとりがたく、ただ、株価の最低限値を確認するためを除き、採用すべき理論的根拠に乏しいという外ない。
以上の次第で、本件においては将来の配当利益を算定基礎として評価する方法が最適というべきであって、本件においては、□□鑑定、○○鑑定、××鑑定、△△鑑定が夫々右方法として前二者が単純な配当還元方式、後二者及びAらの試算がゴードン・モデル式による同方式をとっているが、前二者は企業の成長予測が反映されず単純に過ぎ採用できず、結局右利益及び配当の増加傾向を予測するゴードン・モデル式によるのが適当というべきである。

5ゴードン・モデル式による本件株価の算定について
(1)同じくゴードン・モデル式による本件株価の算定についても、右のとおり××鑑定と○○鑑定において各パラメーターの決定方法が異なる。
○○鑑定によれば同式は株価=1株当たり利益/(資本家率-内部留保率)
(i=資本化率、r=再投資利益率、b=内部留保率、D=1株当たり利益)で表され、経営の現状からみて、可能な範囲の内部留保に基礎をおき、そこから利益及び配当の増加傾向を予測して、利益、配当の成長予測の恣意性、飛躍性をさけようとする趣旨であるところ、右rの把握の仕方につき、○○鑑定は右ゴードン・モデルの基本的考え方をそのまま計算過程に移した安定した手法であるに比し、××鑑定は限界自己資本利益率と把握しているが、前者の方が理解し易いといえ、bについても前者は本件会社の具体的数値を基礎に予測しているに比し、後者は業界平均値によっているが前者の方が評価対象の実体に沿うものといえるなどの点に照らし、基本的に○○鑑定の手法によるのが相当である
(2)○○鑑定の手法における各パラメーターの数値と算出
(イ)まず、rの把握につき、○○鑑定は会社が利益をあげるのは自己資本だけでなく借入資金によっても利益をあげうることに着目して、総資本純利益率を基礎とし、これと負債比率を各予測し、内部留保単位1に対する利益率を予測する方法をとり、いわばゴードン・モデルの思考過程をそのまま計算過程に具体化したものであって、合理性があり、さらに外部資本はその金利負担と生み出す利益が相殺され、会社の利益は全て自己資本によるということがいえないので、rの算出式を展開すれば終局的に自己資本に等しいこととなることのゆえに、直ちにrを自己資本利益率としてとらえねばならないものではない。
(ロ)iについては、(中略)別件において◇◇鑑定人は長期国債利廻りを基礎として市場性欠如によるリスク・プレミアム50%、これに対する譲渡制限による同プレミアム10%、さらに中小企業による同プレミアム1410%(対基礎資本化率倍数1.815倍、中小企業による右プレミアムを除いた場合は1.65倍)を加算した数値によっている。
そして××鑑定意見によれば右基礎資本化率を政府保証の長期公社債の応募者利回りによることは通常行われることであることが認められるので、右◇◇鑑定の手法中中小企業によるリスク・プレミアムを加算しない算式(基礎資本化率に対し1.65倍)と、昭和60年10月時の右政府保証長期公社債の応募者利回り6.22%によるのが相当というべきである。



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