2012年1月22日日曜日

損害賠償請求事件 東京地裁平成4年9月1日判決(判時1463号154頁、判タ831号202頁、金判927号9頁)

東京地裁平成4年9月1日判決(判時1463号154頁、判タ831号202頁、金判927号9頁)

事案の概要
本件会社は、資本金900万円、発行済株式総数18万株の株式会社であるが、昭和61年10月13日、取締役会において、額面普通株式30万株を、発行価額50円で発行する旨の決議をし、当該30万株の全部を本件会社の従業員で組織する労働組合に割り当てた。上記新株発行については、商法280条ノ2第2項所定の株主総会の特別決議及び同第1項8号所定の取締役会決議はなされていない。
本件会社の株主Aは、上記新株発行は「特ニ有利ナル発行価額」によるものであるにもかかわらず、株主総会の特別決議を経ないでなされた等と主張し、取締役の任務懈怠、労働組合の不法行為を理由に、新株発行により下落したAの株式の価額と新株発行がなかったと仮定した場合に算定されるそれとの差額を損害として、取締役及び労働組合に対して賠償を請求した。
なお、Aが所有する株式数は、1万9300株であり、その割合は、上記新株発行前の発行済株式総数に対しては10.7%、新株発行後の発行済株式総数に対しては4%である。

裁判所の判断
一 争点1(一)について
本件新株発行は、以下のとおり、株主以外の者に対し特に有利な発行価額をもって新株を発行する場合に該当すると認められる。

1 商法280条ノ2第1項8号及び第2項の「特ニ有利ナル発行価額」とは、時価を基準とする公正な発行価額を特に下廻る価額をいうものであり、この場合の公正な発行価額とは、旧株主に経済的損失を与えることのないように新株主に旧株主と同等の資本的寄与を求めながら、新株発行による資金調達という目的を達成することのできる価額、言い換えれば、資金調達の目的が達せられる限度で旧株主にとって最も有利な価額をいうと解するのが相当である。そして、その公正な発行価額は、一般的には、発行価額決定前の株式価格、売買出来高の実績、会社の資産状態、収益状態、配当状況、発行済株式総数、新たに発行される株式数、予想される新株の消化可能性等の諸事情を総合して、旧株主の利益と資本調達の実現という利益の調和の中に求められるべきものである。ところで、本件会社は株式を公開していないから、その株式は上場株式や店頭登録株式のような市場価額がなく、公正な発行価額を定める決定的な資料はないといわざるをえないが、当裁判所は、本件に関する限り、時価純資産方式を基本にしながら、会社の資産状態、収益状態、配当状況、株式の流通性などの修正要素を加味して、公正な発行価額を決定するのが適切であると考える

2 (一)時価純資産方式は、会社資産を時価に評価替えした上、1株当たりの純資産額をもって株価とするものであり、会社に現存する有形無形の財産ないし会社の実体的価値を示す点で優れた評価方式と考えられる。そして、商法が公正な発行価額での新株発行を原則とする理由が、新株主に旧株主と同等の資本的寄与を求めることにあると解する以上は、公正な発行価額すなわち新株主が提供すべき出資額を判断するに当たって、旧株主の出資提供額ないし実質的持分の現在価値を指し示す時価純資産額を基本にすべきことは当然であり、特に、本件では、本件会社所有不動産の価額高騰による含み資産の増加を株式評価の中に反映させる必要がある。

さらに、取締役らは、昭和60年6月から昭和61年11月にかけてAとの間でA保有株式の譲渡、買取りにつき交渉した際、本件会社の株式が創業以来50円以外の価格で取引されたことはないと知っていたにもかかわらず、Aが提示した時価純資産方式による評価額を基礎に売買価額を決定することにつき、何ら異議を差し挟まずに、専ら、右方式を前提とする買受けの可能性を検討したところ、結局は資金不足を理由に買受けを
断念したとの事実が認められ、これによれば、Aはもとより、本件新株発行直前に既に本件会社の発行済株式の40%以上を保有し、最大の株主となっていた労働組合など大多数の本件会社株主は、時価純資産方式の採用には理由があると認識していた事実を推認できるから、右方式による評価は、むしろ、本件会社の実態を反映しているということができる。

(二) 非上場株式の評価方法としては、右時価純資産方式のほか、一般に、ア売買実例方式21、イ配当還元方式、ウ類似会社比準方式、エ類似業種比準方式、オ利益(収益)還元方式、カ時価純資産方式と配当還元方式の併用方式、キ時価純資産方式と類似業種比準方式との併用方式等が考えられるが、本件では、以下の理由により時価純資産方式に優る評価方式は存しない。

(1)〔売買実例方式について〕
本件会社の株式が創業以来本件新株発行まで50円以外の価格で取引されたことがないとしても、右実例のすべてが額面の1株50円を経済的に合理的な株式価値と認識して取引したものとは認められないし、さらに、取締役らが挙げる売買実例における買主はすべて労働組合であり、かつ、本件会社は労働組合によって実質的に支配される極めて閉鎖性の強い会社であることを併せ考えると、売買価格50円による取引実例はいずれも特殊なケースというべきであるから、50円を公正な発行価額ということはできず、他に適切な売買実例は見当たらない。

(2)〔配当還元方式、時価純資産方式と配当還元方式との併用方式について〕
取締役らは、配当還元方式の採用を主張し、鑑定人○○も、本件新株発行直後のA保有株式の株式価格については配当還元方式を採用して、右価格を50円と鑑定しているが、本件会社は、昭和43年から現在に至るまでの20余年にわたり無配の状態が続いており、将来における配当額予想を前提とする右方式の採用は困難というべきである。すなわち、無配が継続している場合、右方式は理論的正当性を持たず、定説と呼べるような株価算定方法も存在しない
また、鑑定人○○は、本件新株発行直前のA保有株式の株式価格については時価純資産方式と配当還元方式との併用方式を採用しているが、本件では配当還元方式の採用が困難であるばかりか、両方式は、依って立つ基盤を異にしており、両方式を併用することは理論的にも正当ではない。

(3)〔類似会社比準方式、類似業種比準方式、時価純資産方式と類似業種比準方式との
併用方式について〕
適切な標本会社ないし標本業種が見当たらず、類似会社比準方式、類似業種比準方式及びこれらと他方式との併用方式を採ることはできない

(4)〔利益還元方式について〕
会社の利益、収益の相当部分は配当に充てられることなく社内に留保されることが多いし、直接株主に利益を与えるものではないから、理論的に正当性があるとは考えられない。

(三)取締役らは、Aが再び経営に参加することは考えられず、時価純資産方式を採用すべき根拠としての経営支配力を欠いている旨主張するが、株式自体の属性としてその性質上当然に経営参加の可能性が否定されるというものではなく、それがAに帰属する限りで経営参加の可能性が乏しいというにとどまり、また、本件において、右方式を採用すべき根拠は経営支配力の点に限られないから、時価純資産方式の正当性は否定されな
い。

(四)したがって、本件では、時価純資産方式を基本的に採用すべきである。
ただし、企業が継続する以上、株式を取得することによって直ちに取得株式割合に応じた時価純資産を直接的に把握できるという筋合いのものではなく、会社解散による清算の時に初めて具体的持分として現れるにとどまるのであるから、時価純資産方式は、継続企業における株式の評価方式として完全な評価方式ということはできない。1株当たりの時価純資産額がいかに高額であっても、会社の資産状態、収益状態、配当状況及びそれらの将来の見通しが芳しくなければ、時価純資産方式による株式価額そのままでは新株引受を期待できず、右のような事情を考慮して減額修正することが必要となる。
また、投下した資本を回収する手段としては、現実には株式を譲渡するよりほかないから、株式の流通性ないし譲渡可能性の程度も当然考慮しなければならず、この観点からも減額修正(▲70%)を施す必要がある。


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