2012年1月22日日曜日

不公正な価額による新株発行に係る差止仮処分申立事件 東京地裁平成6年3月28日決定(判時1496号123頁、判タ872号276頁、資料版商事法務122号168頁)

東京地裁平成6年3月28日決定(判時1496号123頁、判タ872号276頁、資料版商事法務122号168頁)

事案の概要
本件会社は、ラジオ放送事業等を目的として、昭和29年に設立された株式会社であり、資本金は5億円、発行済株式総数は100万株、株主総数は279人である。
本件会社の平成5年3月期の売上高は約412億円に上り、民放ラジオ業界においては、昭和40年以来、売上高第1位を続けてきている。本件会社の業績は順調で、最近は1株当たり60円の配当を継続している。
本件会社は、平成6年1月26日、取締役会において、額面普通株式20万株を1株1万7000円で発行し、取引金融機関等20社に割り当てる旨の決議を行った。その上で、同年3月7日、上記新株発行について、株主総会の特別決議がなされた。
本件会社の発行済株式総数の約13.1%の株式を有し、筆頭株主であるAは、上記新株発行について、「特ニ有利ナル発行価額」によるものであるとして、新株発行差止仮処分を申し立てた。
裁判所の判断

二 発行価額が特に有利かどうかについて
1 まず、本件新株の公正な発行価額の算定方式として、類似会社比準方式が適当であるかどうかを検討する。

(一) 類似会社比準方式を採用するためには、類似会社が存在すること、その選定が適切に行われることが必要である。あまりに厳密に類似性を要求すると、およそこの方式は採り得ないことになるが、少なくとも業種、規模等の基本的な点において、ほぼ同種で、大きな差がない場合でなければ類似会社として取り扱うべきでないことには異論がなかろう
 本件会社は、本件新株の発行価額を決定するにあたっては、中部日本放送、朝日放送、RKB毎日放送を類似会社とする類似会社比準方式に基づく鑑定結果(1万5600円)をひとつの参考数値としていた。しかし、右三社は、同じ放送業であり、企業規模については対比に耐え得ないものではないとしても、本件会社がそれ自体としてはラジオ単営であるのに対し、テレビ単営又はラジオ・テレビ兼営という違いがある。
現在では、ラジオ放送とテレビ放送は、事業として、とくにその情報メディアとしての性格や成長性等において相当に異なり、同種といい得るか疑問のようである。現在では、本件会社も右のような理由により右三社を類似会社と主張せず、本件会社に類似会社は存在しないと主張している(なお、このように価額算定の根拠ないし価額の公正さの説明方法を無定見に変更することが好ましいことではないことはいうまでもないが、公正な発行価額自体は客観的に決められるべきことであるから、右の点はここでは問題にしない。)。また、後述のように、本件会社についてはフジテレビジョンという極めて大規模な会社を子会社としている点も、大きな相違点として、類似会社とみることの障害になると考えられる。

(二) それでは、Aの主張するように、フジ・サンケイグループ各社を一体的に企業集団としてとらえて、東京放送、日本テレビ放送網を類似会社とみるべきであろうか。
なるほど、親子会社については連結決算を見なければ全体的な財務状態を的確にとらえることはできない場合は多いであろうし、企業集団というものがひとつの社会的・経済的実体をもつこと、子会社の資産・経営状態が親会社の株価に影響を与えることは否定し難い事実であろう。しかし、親会社と子会社は、別個の法人格を有しているのであるから、計算は会社ごとに行われるわけで、子会社の資産や収益がすべて親会社の資産・収益になるものではないし、親会社が子会社の全株式を保有する場合でないかぎり、親会社が子会社のために子会社の利益を度外視して自由にこれを支配することも困難と思われる。本件の場合、本件会社はフジテレビジョンの株式約51%を有するにすぎず、また、会社の規模としては、例えば売上高でいえばフジテレビジ
ョンは本件会社の約7倍(平成5年3月決算で約2700億円と約400億円)であるように、子会社の方が圧倒的な規模の大きさを誇っている関係にある。本件会社がフジテレビジョンの資産・利益を完全に支配しているとみて、フジテレビジョンの資産・利益を本件会社のそれと同一視することは、法的にはもちろん、社会的・経済的な観点からも妥当性を欠く面があると考えられる。前述のように、子会社の資産・経営状態が親会社の株価に影響を与えることは事実であろうが、本件の本件会社とフジテレビジョンのような関係にあるとき、例えば市場において双方の株価にどの程度影響していると考えられるか、明らかにした資料は提出されていない。
したがって、本件会社だけでなくフジテレビジョンやポニーキャニオンを含めて一体的に企業集団としてとらえた上で類似会社比準方式を適用すべきであるとのAの主張は採用できないから、右主張を前提として東京放送、日本テレビ放送網が類似会社であるとするAの主張も採用できない。
放送業で上場されているのは、今までに検討した5社以外にはないから、結局、本件会社には類似会社が存在しないことになる。
(三) 略

2 次に、時価純資産方式(Aが第一次的に主張するのは、再調達時価純資産方式のようである)ないし収益還元方式又はこれらの加重平均方式を採るべきかどうかを検討する。

(一) 時価純資産方式にせよ、その一類型というべき再調達時価純資産方式にせよ、会社の純資産の価額を直接的な形で株式の価額の算定基礎とするものであって、株式が会社財産に対する持分としての性格を有していること、商法上も株価の算定について会社の資産状態が斟酌すべき事情の例示として挙げられている場合があること(204条ノ4第2項)などに照らしても、場合によっては有力な価額算定方式たるべきものと考えられる。例えば、会社が解散・清算することが予定あるいは予想される場合や、小規模会社の圧倒的支配株主のように、株主が会社財産について、いわば煮て食おうが焼いて食おうが自由といった類の完全な支配権を有している場合、あるいはM&Aによって会社の支配権を買収しようとする場合などには、適する方式といえるであろう
しかしながら、そうした支配権を有しない一般の株主にとって、会社が継続する限り、いかに会社が含み資産を保有しているとしても、右含み資産の処分利益(あるいは再調達価格相当の利益)は直接取得あるいは支配する現実的可能性のないものであるから、この場合、時価純資産方式によって株価を算定することは、株式に現実的な経済的価値以上の価額を付することになるのであって、妥当とはいい難い
本件会社の場合、解散・清算することなどおよそ予想されない会社であることは当事者双方が認めるところであり、また、本件新株の割当を受ける者らが本件会社の支配権を取得することになるものではないことも明らかであるから、本件新株の公正な発行価額を算定するにあたって、時価純資産方式又は再調達時価純資産方式を採用することは適当といえない。

(二) Aは、非支配株主という概念は、支配株主が存在する場合のものであって、本件会社のように支配株主が存在しない場合、非支配株主であるとの理由で時価純資産方式の採用を否定するのは不当であると主張するが、純資産の価値を直接取得あるいは支配する現実的可能性がないという点は、本件会社のような大会社における持株比率数%といった少数株主一般について、他に支配株主が存在するかどうかに係わりなくいい得ることである。時価純資産方式を採用できない理由は、文字どおり「非」支配株である点にあるのであって、「被」支配株であることにあるのではないと解すべきである。
なお、純資産方式は採用できないが、これによって算定した価額が企業継続を前提として配当還元方式により算定した価額よりも高いときは、会社は株主の利益のために即時に解散されるべきであるから、純資産方式による価額には、株価の最低限を画するという意義があるとする見解もある。しかし、株主が現実的に取得・支配する可能性のある利益を基準と考えて配当還元方式を採りながら、現実的には予定あるいは予想されない解散・清算を前提とするのは、首尾一貫しない態度というべきである。
実際にも、多くの裁判例において、純資産方式による価額は最低限のものとして機能してはないのであって、このことは、右のような見解が、株価の現実的価値を考えるにあたって一般的に受け入れられているものではないことを示しているともいえよう。

(三) 収益還元方式についても、非支配株主にとって直接取得あるいは支配する現実的可能性がない内部留保を株主に帰属する利益と考える点で、純資産方式と同じ問題点を含んでおり、前同様の理由で、本件新株の公正な発行価額を算定する方式としては適切でない。
また、右のような理由で時価純資産方式及び収益還元方式のいずれも本件に適切でない以上、それらの加重平均方式も、当然のこととして、本件に適切ではない。
もっとも、株式が公開される場合、その株価には配当利益だけでなく純資産や内部留保の価額が反映され、その機会に株主はキャピタルゲインを獲得することにはなるであろう(ただし、その場合でも、純資産や内部留保の価額がそのまま株価の上に実現されるものではあるまい。)。したがって、株式の公開が現実の日程に上った場合には、その点を適切に考慮した株価が相当とされるであろう。しかし、このことは時価純資産方式や収益還元方式を採用することとは別のことであるばかりでなく、前述のように、本件会社については株式の公開が現実の日程にまで上っているわけではない

3 以上述べた、類似会社比準方式、時価純資産方式及び収益還元方式が採用し難い理由の反面として、本件新株の公正な発行価額を算定する方式としては、配当還元方式が適切であるといわざるを得ない。そして、配当還元方式の中でも、ゴードンモデルといわれる方式は、収益の内部留保による将来の配当の増加をも計算の基礎に加える点で、より優れていると考えられる。
もちろん、ゴードンモデル方式による算定価額も、種々の仮定や数値の選択に基づくひとつの理論上の価額にすぎないから、有効性に一定の限界はあろう。資本還元率や再投資率、内部留保率の数値の採り方の妥当性については、本件の場合も、議論の余地があるものと思われる。しかし、本件会社のように、類似会社が存在せず、非上場だが、概ね順調な業績を続け安定した配当を行っている大規模会社の非支配株に関する価額算定方法としては、株主が現実的に期待し得る利益を理論的に算定するものとして、さしあたりその相対的な適切さを肯定すべきである。


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